ネット時代の不動産売却術

ネット時代の不動産売却術

不動産の流通(売買)は、ここ数年で大きく変化しました。他の業界と同じく、理由はインターネットです。不動産の売買取引そのものは従来と同じく対面での説明や書面での契約で行なわれますが、その前の販売活動・購入検討の段階では、インターネットの影響が非常に大きくなっています。そのことを十分に理解していないと、本当の価値よりも安く売却してしまう可能性があります。

不動産売買におけるインターネットの影響

インターネットが普及する以前、土地・戸建て・マンションなどの不動産の売却は、売主の窓口となった不動産会社が、住宅情報誌やチラシなどで直接買い手を探す方法が主流でした。

​レインズは存在していましたが、不動産会社間の情報のやり取りはFAXに頼ったもので情報量が限られていたため、他社の顧客への紹介を販売の軸にすることは現実的ではありませんでした。

「できるだけ数多くの購入候補者へ、分かりやすい情報を届ける」という鉄則はいつの時代も変わりませんが、顧客の集客方法が高コストの紙広告に限られ、情報伝達も難しかった時代には、売主の窓口となった不動産会社が、自社で買い手を探して、自社だけで仲介する、というのが合理的な仲介のあり方でもあったのです。

しかし、インターネットによって、不動産の販売環境は大きく変わりました。

購入希望者から見ると

  • 自分で不動産の売却物件情報を集められるようになった。
  • メールのやりとりで済むので、気軽に不動産会社へ問い合わせできるようになった
  • 情報収集が容易になり、自分自身で客観的に購入を判断できるようになった

​​仲介会社から見ると

  • インターネット広告によって、中小の不動産会社でも集客が可能になった​
  • 他の不動産会社やその先の購入希望者への情報伝達が詳細・精緻に行えるようになった

​このような変化がありました。情報流通のコスト・難易度が大きく下がり、従来は不動産会社に任せるしかなかった多くのことを、売主・買主が直接行ったり、情報把握できるようになったのです。

​その結果、「購入希望者に、よりきちんと情報が伝わるように商品化を行い、その上で多くの不動産会社の販売網を活用する」ことによって、不動産をより高い価格で売却することができるようになりました。

​不動産を高く売る方法​

では、どのような方法で販売活動を行えば良いのかを少し具体的に見てみましょう。

​適切な販売活動に重要なポイントは、「商品化」と「検討者の最大化」です。

  • ​「商品化」は、あなたの不動産を、買い手から見て価値が分かりやすく、不安がない状態にすること。つまり、買い手が買いやすい商品にすること、です。
  • 「検討者の最大化」は、文字通り、買おうかどうしようかを考えてくれる人を増やすこと、です。

​買いやすい商品を、多くの人が購入検討すれば、適正な価格で売れる。

当たり前の話と感じられるのではないでしょうか。

商品化​

お店で買い物をするとき、汚れがついていたり、何か不安があったりする商品は、よほど値引きがなければ買わないのでないでしょうか?

ところが、不動産は、汚かったり、不安な点を抱えている物件が非常に多く売り出されています。中古ですから、新築のようにピカピカとはいきませんが、それでもある程度きれいで、不安が解消されている物件と、汚れも不安もそのままの物件では、買い手が付けられる価値は全く異なります。

​以前は情報の入手そのものが難しかったので、買い手は物件の比較を十分には行えず、ある程度、不動産会社の誘導に沿って検討を行っていました。しかし、インターネットによって情報を入手しやすくなったため、購入するお客様の判断基準はどんどん正確になってきています。

​その結果、「商品化」がきちんとされているかどうかで、顧客の検討率が大きく異なるようになっているのです。

​検討者の最大化​

​より多くの人に見てもらえれば、より高く買う人が見つかる可能性が高くなります。

​そのためには、以下の2点が必要です。

  • できるだけ多くの広告を行うこと
  • できるだけ多くの不動産会社に紹介してもらうこと

​できるだけ多くの広告を行う

実は、不動産の広告は、販売を依頼された会社だけでなく、他の会社が行うこともあります。購入希望の顧客を中心に営業をしている会社は、見込み客を集めるために、できるだけ物件の広告をしたいのですが、購入を中心に営業活動を行っているため肝心の売却物件がありません。そうすると、売却物件を持っている会社に連絡をして、「自社の費用で行ないますから、この物件を自分たちにも広告させてもらえませんか?」と依頼をするのです。

これを利用することで、自社だけが広告を行う場合に比較して、広告量を飛躍的に増やすことができます。

​できるだけ多くの不動産会社に紹介してもらう

すでにご説明の通り、レインズを通じて、他の不動産会社も自社の顧客に売却物件を紹介することができます。

ただ、他の不動産会社は、その物件や個別の事情に詳しいわけではありませんから、売却を担当している会社が物件の情報をきちんと整理して提供しなければ、効果的に顧客に紹介することができません。

逆に、物件の情報をしっかり整理して、他の不動産会社が物件紹介をしやすいようにすれば、他の不動産会社の数は非常に多いので、大きな効果を得ることができます。

​従来型仲介の限界​

前述の通り、不動産を高く売るためには、商品化と購入検討者の最大化が重要です。

ところが、この2つをきちんと行えている不動産会社は非常に少ないのです。

​従来の常識や慣習が根強く残っていて、新しい時代への対応の必要性が正確に理解できていないということもありますが、理由はそれだけではありません。

​従来、不動産業界では、両手取引を中心とする営業方法が取られてきたことは、ご説明しました。その結果、広告や営業活動の方法だけでなく、組織や会社のあり方も両手取引に合った形になっています。

ところが、インターネットの影響力を効果的に使うためには、片手取引を中心に考えなければなりません。

​両手取引と片手取引では、取引あたりの売上(仲介手数料)が倍も違います。したがって、単に広告や営業手法を変えるということではなく、会社全体を変えなければ、対応できないのです。

​商品化できない理由​

従来型の仲介では、不動産の商品化はあまり重視されません。理由はいくつかありますが、もっとも重要な理由は、売れにくくても仲介会社は困らない、ということです。

物件はあくまで売主の所有物ですから、売れ残っても、価格が下がっても仲介会社は損をしません。また、販売活動が長期化しても費用が非常に増えるという訳でもありません。販売が苦戦してなかなか売れなければ、売主は値下げをすることになり、その結果、仲介会社があまり労力をかけずに売れるということもありえます。

​商品化をすれば、両手仲介でも間違いなく売れやすくなりますし、より高く売れる可能性も高まります。しかし、それには担当者の手間がそれなりに必要です。売却物件の直接の担当者であれば、その物件について一通りは理解していますから、自分だけが購入希望者への対応をする分には、(高く売れるかは別として)わざわざ商品化を行うよりも口頭の説明で済ませてしまう方が簡単です。

​また、売れやすいと、自社だけが物件を適切に説明できるという優位性がなくなり、自社よりも他社が先に買い手を見つけてしまうかもしれません。それでは両手仲介ができなくなってしまいます。

​​検討者の最大化ができない理由​

他社に広告を許可できない理由

大手を中心としたほとんどの仲介会社では、他社での広告を許可せず、自社が広告主となる広告のみを行っています。

これは、会社の利益という点では、間違っていません。自社が行う広告のみであれば、見て興味を持った顧客は、全て自社に連絡をくれます。その物件を購入してくれるなら両手取引に​なりますし、買ってくれなくても、自社の見込み客にできるからです。しかし、売主の利益は考慮されてはいないのです。

​片手取引を重視できない理由

不動産の売買仲介業界では、両手仲介を前提に、広告費等をたくさんつかって、それ以上に稼ぐという高コスト・高収益のスタイルが主流でした。仲介手数料の額が大きいので、かなりの費用をつかっても十分回収できたためです。

​しかし、不動産をできるだけ高い金額で売ることを考えると、片手仲介を前提としなければいけません。片手仲介は、売り上げが両手仲介の半分ですから、コストを抑えた組織・体制でなければ採算が合いません。

​このため、紙広告の仕組みを重視する伝統があったり、すでに立派な店舗をもっていたりする場合には、1社での仲介(両手仲介)を偏重せざるを得ず、2社での仲介(片手仲介)を重視することはできないのです。

不動産を売るカテゴリの最新記事