不動産のプロではない一般の人が不動産を売却する時には、本来の価値よりも安い価格で売られてしまう危険性があります。そして、実際にそうなってしまっているケースもよく見られます。
不動産会社の営業担当者が売主を騙している場合も無い訳ではありませんが、多くの場合、不動産仲介業の構造的な問題が原因になっていて、営業担当者には、悪意は無く、それどころか自覚や認識がないこともあります。
ここでは、その理由について説明します。
仲介手数料の報酬制度
仲介手数料の特殊性
売主は、不動産の売却を依頼する仲介会社に、報酬として仲介手数料を支払います。この仲介手数料は、一般的なサービスの料金と比較すると、かなり特殊なもので、以下の特徴があります。
- 成功報酬
- 金額は成約価格に対する料率
- 手数料が法律で決まっている
① 成功報酬
仲介手数料は成功報酬です。売買取引が成立して、はじめて報酬をもらえます。いくら一生懸命に販売活動をしても、売主に「やっぱり売るのは止めました」と言われれば、報酬をもらうことはできません。
つまり、仲介会社は、常にタダ働きになるリスクを抱えているということになります。
② 金額は成約価格に対する料率
仲介手数料は、その上限額が成約価格に対する料率(パーセンテージ)で決まっています。通常、上限額または上限額に割引を設定して報酬額を決めるため、ほとんどの場合、報酬額は成約価格の○パーセントという形になります。
このため、仲介会社がどれくらい労力やコストを費やしたのか、相場よりもどれくらい高く売れたのか、という活動の内容や結果の質は報酬額には影響しません。
③ 手数料の仕組みは国が決めている
①②は、国土交通省告示という形で国が定めています。単純に報酬額を下げることはできますが、成功報酬でなくすることはできません。また、成約価格は低いけれども手間のかかる物件の場合でも、法定上限を超えた報酬額を受け取ることはできません。
売主と利害の一致しない報酬制度
このように、不動産仲介は、常にタダ働きのリスクを抱え、また実際の努力や結果とリンクしない報酬の業務です。
この結果、仲介会社は、とにかく売買を成約できれば良い、という姿勢になりやすく、純粋に売主のために活動することが難しいのです。
両手取引の誘惑
買い手を見つける2つの方法
仲介会社が不動産の買い手を見つける方法には2通りあります。
- 自社で買い手を見つける
- 他の仲介会社に買い手を見つけてもらう
自社で買い手を見つける
こちらは、自分たちで広告活動などの販売活動を行って、その中で買い手を見つける方法です。
新聞の折り込みチラシやインターネットへの物件掲載を行い、その広告を見て連絡をくれた人に買ってもらいます。
他の仲介会社に買い手を見つけてもらう
もう一つは、他の仲介会社に買い手を見つけてもらう方法です。
例えば、東京と神奈川では、合わせて30,000以上の不動産業者がいます。同時期・同エリアのコンビニの数が11,505件だそうですから、不動産業の店舗はコンビニのざっと3倍くらいある計算になります。ずいぶん多いですよね。
複数の店舗をもつ会社もありますから、実際にはもっと多くの店舗があることになりますし、店舗には複数の営業担当がいることも多いでしょう。
これらの不動産業者はそれぞれ独自に営業活動を行なって買い手を探し、その情報をストックしています。ですから、それぞれの仲介会社がぞれぞれの顧客にあなたの物件を紹介してくれれば、購入検討者をかなり増やすことができ、より良い条件で売れる可能性が高まるでしょう。
実は、すでに不動産業界には「レインズ(REINS)」という情報共有の仕組みがあり、他の仲介会社と共同して売買契約を仲介できるようになっています。
*レインズ:Real Estate Information Network System(不動産流通標準情報システム)の略称。国土交通大臣から指定を受けた公益財団法人不動産流通機構が運営するコンピュータ・ネットワーク・システム。http://www.reins.or.jp/about/
両手取引の誘惑
しかし、ひとつ問題があります。自社と他の仲介会社の2社で売買契約の仲介をすると、売主・買主の双方からもらう仲介手数料の取り分が、1社で仲介をした時の半分になってしまうのです。
1社で売主・買主の両方から仲介手数料をもらうことを両手取引と言い、売主・買主にそれぞれ別の仲介会社がつくことを片手取引と言います。
売買取引そのものは1つですから、同じような業務量で、両手取引であれば報酬は2倍、片手取引であれば報酬は半分と大きく異なります。
例えば、大手仲介会社では、営業担当者の手数料獲得のノルマはかなり高額で、1人あたり月250万円から300万円くらいに設定されています。
売却がたくさんあれば、あまり報酬の単価にこだわらなくて済むのかもしれませんが、実際には、売却の件数は限られているため、手数料が少ない片手取引では、なかなかノルマに届かない、ということが起こります。そのため、仲介会社はなんとか両手取引にしようとします。
結果として、売主のために高く売ることよりも、安くても両手取引になるように活動してしまうことも多いのです。